小説

「準備OKよ。でも、本当に大丈夫なの」
吉野が生徒会室に駆け込むなり、そういった。作戦を聞いた時は、ずいぶん無茶だと思ったが、本当に上手くいくのだろうか。
「大丈夫よ、明日の夜には片がつくはずよ」
蛍子は自信たっぷりに言い切った。
吉野の仕事は、噂を流すこと。生徒会の情報を吉野が知っていても、怪しまれない。
後は三杉も声高に、このことを触れ回ってくれているだろう。
吉野たちが広めている噂はこうだ。
すなわち新たなテスト問題が作成され、それはハワイに行っている三竹先生から送られてきたものだ。ということ。
そしてその問題用紙は、職員室ではなく生徒会室に保管されるのだということを。
だが、本当に上手くいくのだろうか。もしまた盗まれてしまったら。
「本当にいいんですか。三竹先生が作ったことまでばらして」
蛍子の横に座っている三杉に尋ねる。
「いいのよ、恩田先生が作ったって、誤解させておくほうが、盗みに来ないかもしれないでしょ」
それじゃあ、困るのよ。という。
「それはそうですけど。せっかく三竹先生に頼んだんですし、このままテストまで問題を隠してたほうが」
吉野が戸惑いながら言うと、
「でもそうしたら、犯人は二度とつかまらないわ」
「それはそうですけど」
犯人がつかまらなくとも、彼または彼女が元の成績。実力でテストを受けたら充分ではないか。
「そうしたら、ケーコちゃんの汚名が晴れないでしょ」
吉野の考えを読んで、冷静な声音で三杉が指摘する。
「そうですね。忘れてました」
はっと、吉野が気付く。
「とにかくテスト問題が再び盗まれることはないわよ。絶対」
自信有りげに応える三杉を、信用することにして吉野は黙った。

◆金曜日◆ 1 へ続く)

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「どちらにしろ、校内に上手く隠れていたとしても、IDカードを使わずに犯行は無理ね」
七時を過ぎるんだもの。と三杉が考えるまでもない、と言い放つ。
「ということは、犯人はリストの中にいるってことね」
黙って話を聞いていた蛍子が口を開く。
「その通り」
三杉はリストの中から、三人の名前を書き出した。
「その中で、怪しい人物よ」
ホワイトボードの上には、
「二宮 栞」
「寺本 晋」
「清原 省吾」
と書かれていた。
「この三人に絞った理由は」
守成が尋ねると、三杉はテキパキと、
「それは、アリバイと動機です。それらしくいえば」
つまり校門を出るまで、団体行動をしていたバスケ部員は除外。そのあと一緒にラーメン屋まで行っている。
それから、校内に残っていた三年の山藤も動機がない。
盗まれたのは二年のテストで三年のものではない。間違って盗んだという可能性も、それなら最初から三年生の専用職員室に入っていただろう。ということで、却下。
「じゃあ、この人は。確か二宮さんって、三年生のキレイな人ですよね」
吉野が二宮栞の顔を思い出しながら、三杉に尋ねる。
「ええ。でも彼女には、二年生のボーイフレンドがいるのよ。成績優秀な彼女にしては不釣合いな問題児のね」
「えっ、それって」
「そう。少し噂になってたみたいだけど、吉本くんよ。彼、今度のテストでかなり良い成績をとらないと、期末まで待たずに、留年するかもね」
「ええっ!だって、まだ二学期じゃない」
蛍子が驚いて大声を出す。
「そうだけど。彼の場合は素行もいいとはいえないし。中間、期末はもちろん、今度のテストも落とせないわ。成績にかなり関係するから」
三杉の言葉に吉野は納得し、
「じゃあ、二宮さんが忘れ物したっていって校内に帰ってきたのは、吉本くんのために、テスト問題を盗むためだって、考えていらっしゃるんですか」
三杉の顔を見ると、
「その可能性もあるってこと」
「じゃあ、寺本は。バスケ部員だろ」
今度は大石が尋ねる。
「彼だけ忘れ物をしたって、別行動しているのよ。成績はまあまあ、特別悪いわけではないけど良くもない。それに、北応大に入りたいそうなのよ。バスケの推薦を狙っているけど、難しいって」
「なるほど、だから成績アップか」
大石が腕を組むと、三杉は頷いた。
「この頃ガリ勉しているって、噂よ」
そう付け足して締めくくる。
「清原くんは、本人の進級が危ないって、普段から言われている転校組よ」
転校組というのは、成績不良のため進学校である緑南から、それとなく転校を勧められている生徒たちのことである。
「それは、・・・・二年だっけ」
「そう。他の生徒は問題ないと思うわ」
三杉が自信ありげに言い切ると、
「これからが問題だな。これ以上絞り込めない」
大石が三杉の行き詰った訳を、代わりに口にしてくれる。
「そうなのよ、ここまではともかく。ここから先はね」
学校側も今の三人はマークしているわ。という三杉の言葉に、蛍子ががっかりする。
それなら、自分たちの出番はないのではないか。
「先生方も怪しいとは思っていても、決め手に欠けるみたい。状況証拠ばかりだもの」
唯一の証拠はIDカードね。それだって、校内にいるだけで怪しいって云ってるようなものだし。
続く三杉の言葉に、みんなゲンナリする。
「けいこ、せっかくだ。占ってくれないか」
それまで黙って話を聞いていた守成が口を開く。
「占い?犯人を」
「そう、三人の中の誰が怪しいか、はたまた別の誰かか」
犯人が月曜までに捕まるか、でもいいよ。
楽しそうにうながす守成に、蛍子はさっと手を差し出した。
「三千円」
「ケイッ」
吉野が思わず怒鳴る。守成から本気でお金を取る気だろうか。それも相場より高いじゃないか。
吉野がそういって怒ると、蛍子は笑って、
「あのねぇ、私は『タロット蛍子』なのよ。占いにお金取らなくてどうするのよ」
「でも、いつもより高いじゃない」
三千円なんて。
「そーれは、問題が厄介だから。恋愛と同じ相場じゃダメでしょ。やっぱ」
それに緑南のトップシークレットよ。答案用紙が盗まれたなんて、いくら噂になっているとはいえ、学校側は認めないでしょうし。
「それじゃあ、脅迫じゃない」
蛍子の言い分に、吉野が憤然とする。
「かまわないよ、別に」
守成は吉野を宥めるように微笑(わら)うと、財布から三千円取り出した。
「毎度」
蛍子はそういって、三千円受け取ると机におき、カバンからカードを取り出した。
「さて、どうする?」
「そうだな、犯人はどんな奴か。無事に取り押さえることができるか」
というところだな。という守成に、蛍子がカードを切らせる。
守成は鮮やかな手つきでカードを切り、生徒会長の机の前で、カードを広げた。
シャッフル(混ぜる)する守成の手つきはやはり手慣れている。
「過去、現在、未来と」
蛍子は守成から受け取ったカードを手際良く並べると、次々とめくっていった。
「うーん、結構運勢良いわね。アナタの志しは果たされるでしょうって。つまり犯人は捕まるってこと。ただし、守成が捕まえるかどうかは分からない。犯人は、意外な人物?上の人・・・・?アナタの身近な所にいるでしょう」
蛍子が出てきたカードを読み解くと、
「それじゃあ、犯人は絞れないぞ」
大石が文句をいう。
「ウルサイ」
蛍子はむっとしながらも、確かに今の占いなら、犯人を絞り込めないことに気付き、今度は捜し物占いをするために、カードを選り分けた。
「捜し物は、テスト問題だから。皇帝のカードっと」
自分でカードを混ぜ合わせると、また守成にカードを切らせる。
「えっと、カードは南西」
皇帝のカードが出てきた方角を告げると、
「あのなあ、どうやって探すんだよ。南西にある部屋全部みるのか。ここだって、南西だぞ」
大石が呆れてため息をつく。
「学校とも限らないしね」
家に持って帰っているだろうし、と三杉はいうと、
「たしか、南西の方角に家があるのは清原くん。上の人っていうことは、やっぱり二年のテスト用紙より上ってことで、三年の二宮栞かしら」
蛍子の占い通りに考えてやる。
「そうねぇ」
気のない相づちを打つと、
「『吊られた男』がでてる。何かに、賭ける・・・・・」
呟く蛍子に、「そうだな」と、守成は相づちを打つと、「それで、結果は」と聞いた。
「いったでしょ。結構、運が良いって」
蛍子が言い放つと、守成は「よし」と立ち上がった。
「それじゃあ、賭けをしようか」
不敵ににやりと笑ってみせる。
「そうね。その方がいいかも」
蛍子があっさりと同意する。
「えっ、何をするんですか」
慌てて吉野が尋ねた。
「だから、賭けよ」
蛍子が悪戯っぽく、笑ってみせた。

◆木曜日◆ へ続く)

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「だって、私を、『タロット蛍子』を泥棒扱いするなんて、許せないもの」
両手を拳に握って怒る蛍子を凝視(みつ)めて、三人とも視線を外し、密かにため息を吐く。
「仕方ないだろ。何かあったら、悪く言われるような怪しい奴なんだから」
「どういう意味よ」
大石に詰め寄る蛍子を三杉が止めると、
「大石くんの言うことも一理あるわよ。『タロット蛍子』は、そういう存在なんだから」
「だからって」
三杉の言葉に蛍子が悔しそうに、下唇を咬む。
「そうね、だからって許せないわね。それが犯人の流した噂なら、ね」
腕を組んだ三杉に三人の視線が集まる。
「タイミング的にみて、その可能性が高いって私は見ているんですけど」
「で?三杉はどうする気だい」
守成が蛍子をみる。その視線をとらえて、
「そうですね。ケーコちゃんの悔しい気持ちも分かるし」
蛍子が息を詰めて、三杉の言葉を待つ。
「だから、犯人を今週中に見付けて、ケーコちゃんの試験勉強を土日にさせるっていうのはどうです」
「多可ちゃん!」
蛍子が三杉に飛び付く。
「仕方がないな。どっちにしろ、けいこが大人しくしているとは思えないからね」
守成が満足そうに笑って蛍子たちを見る。
「でも、今週中に犯人を見つけるって言ったって、そんなに上手くいきますか」
吉野の当然の疑問に、
「大丈夫。なせばなる、なさねばならぬ何事もっていうでしょ」
不安そうに蛍子を見る吉野に、
「ケーコちゃんの言う通り。とりあえず動きださないと、何も変わらないわ」
三杉が気を取り直したように、どちらかといえば自分に言い聞かせるようにいう。
「そうだな、まず噂の出所と校内に残っていた奴のチェックだな」
大石がまず片付ける問題を口にすると、
「それなら、」
と吉野がノートを出してくる。
「噂っていっても、緑南は生徒数が多いいんで、ここから流れたっていう限定は出来なかったんですけど、大まかに聞き込みしてきた結果です」
三杉がカバンから書類を取り出してきた。
「こっちは当日学校に居残っていた生徒のリストよ。テスト前だから、部活で残っていたのはバスケ部だけ。後は忘れ物を取りに来た数人ね」
二人して調べ済みのリストを渡す。
「どうせこうなると思って」
ケーコちゃんのことだから、犯人なんていわれて黙っている訳ないもの。
眼を丸くしている蛍子に、説明してやる。
「アリガト」
蛍子が嬉しそうに、下を向きながら小声で呟く。
「あら、」
三杉は可愛くてたまらないというように、
「いいのよ。これぐらい」
蛍子の頭を撫でてやる。
「さて、それじゃあ整理してみましょうか」
バサバサと書類とノートを広げると、各自覗き込む。
「うーん、噂の方はやっぱ確証がないな」
大石が広げたノートを読みおわり、三杉に渡しながらぼやく。
「一年B組って」
大石がノートの左端を指す。
「それ、B組の生徒で噂の出所が止まっているんです。偶然にしてもそういう人が何人かいたから、」
彼女たちはクラスでその噂を訊いたっていってます。と吉野が続ける。
「あとは、新聞部の子や美術部の人たちも、結構そこから先、辿れなかったんですけど」
「ちょっと待って。美術部って確か」
三杉がパラパラと手帳をめくる。
「やっぱり、テスト問題が盗まれた当日に学校に残ってるわ」
「部活やってたのって、バスケ部だけじゃなかったっけ」
「ああ、」
蛍子が疑問に思って尋ねると、大石も相づちを打つ。
「そっちは七時以降に残っていた人たちのリストよ」
三杉はそういうと、ホワイトボードにマグネットでリストを貼りつけだした。
「まず、整理しましょう。問題の月曜日、答案用紙は盗まれた。いいわね」
「うん」と蛍子が頷く。守成と大石も異論はない。
「これは、かなりはっきりしています。恩田先生が帰られたのは六時。その時にはテスト用紙があったわ。なにせ、帰る直前に出来たばかりのテスト用紙を机に 入れたんだから。その時に鍵をかけ確認されています。問題はここから。職員室には何人かの先生方が残っておられたから、職員室の鍵はそのまま、恩田先生は 帰られた。鍵が掛かっていなかったとはいえ、テスト前だから職員室への出入りは不可能。ここまではいい」
「うん、」
三杉はホワイトボードに大きく、六時五十五分と書いた。
「先生方が帰られたのが、この時間。テスト前で家で、テスト問題を作っておられる他教科の先生や学年の先生方。皆さん忙しくて、先週末から早く帰られる先生方が多いそうよ」
今度は九時半と書くと、
「で、この時間に用務員さんが職員室に見回りに行き、荒らされた部屋を発見。セキュリティを作動させ、ガードマンが到着したのが九時四十五分。つまり犯行時間は、六時五十五分から九時半の間ね」
みんなが黙っているのを了承の印ととって、
「私がさっき渡したリストは七時以降、校内に残っていた人のリストよ」
「セキュリティね」
蛍子が確認する。
「そう、みんな知っている通り、最終門限時刻七時を過ぎると、校門を出入りするのに、生徒証明書が必要になる」
三杉はそういって、胸元からIDカードをだす。ひらりと指の間に挟まったカードは磁気のついた本格的なカードだ。
「入るのはもちろん出ていくのにも必要。だから美術部は除外したの」
「つまり美術部は、七時前には帰っているっていうこと」
蛍子が小首を傾げ、三杉に問い掛ける。
「そう、クラブ活動はしているんだけど、六時半には帰っているの。ゆっくり帰った人間がいたとしても、全員カードは通していないわ」
「五分前に、職員室に誰もいなくなっていたとしても無理だな。時間がギリギリ過ぎる」
「時間を勘違いしているっていうことは」
吉野が当然の疑問を口にすると、三杉は首を振り、「確認したけど、鳥野先生にいたっては滑り込みセーフで、IDカードを使わなかったそうなのよ」
「つまり」
「時間ぎりぎり。先生方が帰ってからなら、余計無理だと思うわ」
「じゃあ、美術部はシロですね」
顎に手をやり、考え込みながらゆっくりという。
「そっ。おまけに仲良く揃って帰る所を風紀委員が見ているのよ」
でも、噂の出所としては、怪しいわね。事情聴取されているはずだから。怪しい人間をみなかったかって。
「なるほど、そうだな。なあ、仲河。風紀の見回りって、何時からだ」
黙って話を聞いていた大石が、吉野に尋ねる。
「えーと、六時半からよ。大きく分けると、まず六時から校門に見張りが立つでしょ。この時点でIDカードはなくても、風紀に見られずに校内に入れないわ。 六時までは出入り自由だけど。それから、六時半から別のグループが校内の見回り。最終下校時間である七時五分前には見回りを終わり、校門の前に集合。修平 のサインを貰って、見回り見張り共に終了するのが、七時五分位かしら」
用もなく校内に残っている生徒は、六時を過ぎると風紀に連れ去られてしまう。
「忘れ物をした生徒が校内に入るためには、IDカードが必要だし。もしくは通用門を通って、用務員さんに通してもらうかね」
「校門って、いくつだっけ。正門、裏門。南門に・・・」
三杉がいえば、大石も続ける。
「あとは通用門よ」
三杉は大石に教えてやると、
「美術部はやっぱり除外してもいいと思うのよ」
手帳を閉じた。
「そうかも。ねぇ、六時前に来て校内に隠れてたとか」
「それは、考えたけど」
「風紀の能力がどうとかじゃなく、可能性の問題な」と、蛍子と三杉の言葉に、大石が吉野に申し訳なさそうな視線を送る。
吉野はそんな大石に、「いえ、可能性としては充分ありえると思います。これだけ広い校内なんですもの」と、大石の考えを肯定する。
「そうね。でもその可能性はないと思うわ。確かに緑南ほどの広さなら―ケーコちゃんのことといい、いくらでも隠れる場所はあるけど、今回は意味がないわ」
犯行時間を考えるとね。という。

◆水曜日◆ 4 へ続く)