答案用紙盗難事件 ~タロット蛍子~/◆水曜日◆ 4

小説

「どちらにしろ、校内に上手く隠れていたとしても、IDカードを使わずに犯行は無理ね」
七時を過ぎるんだもの。と三杉が考えるまでもない、と言い放つ。
「ということは、犯人はリストの中にいるってことね」
黙って話を聞いていた蛍子が口を開く。
「その通り」
三杉はリストの中から、三人の名前を書き出した。
「その中で、怪しい人物よ」
ホワイトボードの上には、
「二宮 栞」
「寺本 晋」
「清原 省吾」
と書かれていた。
「この三人に絞った理由は」
守成が尋ねると、三杉はテキパキと、
「それは、アリバイと動機です。それらしくいえば」
つまり校門を出るまで、団体行動をしていたバスケ部員は除外。そのあと一緒にラーメン屋まで行っている。
それから、校内に残っていた三年の山藤も動機がない。
盗まれたのは二年のテストで三年のものではない。間違って盗んだという可能性も、それなら最初から三年生の専用職員室に入っていただろう。ということで、却下。
「じゃあ、この人は。確か二宮さんって、三年生のキレイな人ですよね」
吉野が二宮栞の顔を思い出しながら、三杉に尋ねる。
「ええ。でも彼女には、二年生のボーイフレンドがいるのよ。成績優秀な彼女にしては不釣合いな問題児のね」
「えっ、それって」
「そう。少し噂になってたみたいだけど、吉本くんよ。彼、今度のテストでかなり良い成績をとらないと、期末まで待たずに、留年するかもね」
「ええっ!だって、まだ二学期じゃない」
蛍子が驚いて大声を出す。
「そうだけど。彼の場合は素行もいいとはいえないし。中間、期末はもちろん、今度のテストも落とせないわ。成績にかなり関係するから」
三杉の言葉に吉野は納得し、
「じゃあ、二宮さんが忘れ物したっていって校内に帰ってきたのは、吉本くんのために、テスト問題を盗むためだって、考えていらっしゃるんですか」
三杉の顔を見ると、
「その可能性もあるってこと」
「じゃあ、寺本は。バスケ部員だろ」
今度は大石が尋ねる。
「彼だけ忘れ物をしたって、別行動しているのよ。成績はまあまあ、特別悪いわけではないけど良くもない。それに、北応大に入りたいそうなのよ。バスケの推薦を狙っているけど、難しいって」
「なるほど、だから成績アップか」
大石が腕を組むと、三杉は頷いた。
「この頃ガリ勉しているって、噂よ」
そう付け足して締めくくる。
「清原くんは、本人の進級が危ないって、普段から言われている転校組よ」
転校組というのは、成績不良のため進学校である緑南から、それとなく転校を勧められている生徒たちのことである。
「それは、・・・・二年だっけ」
「そう。他の生徒は問題ないと思うわ」
三杉が自信ありげに言い切ると、
「これからが問題だな。これ以上絞り込めない」
大石が三杉の行き詰った訳を、代わりに口にしてくれる。
「そうなのよ、ここまではともかく。ここから先はね」
学校側も今の三人はマークしているわ。という三杉の言葉に、蛍子ががっかりする。
それなら、自分たちの出番はないのではないか。
「先生方も怪しいとは思っていても、決め手に欠けるみたい。状況証拠ばかりだもの」
唯一の証拠はIDカードね。それだって、校内にいるだけで怪しいって云ってるようなものだし。
続く三杉の言葉に、みんなゲンナリする。
「けいこ、せっかくだ。占ってくれないか」
それまで黙って話を聞いていた守成が口を開く。
「占い?犯人を」
「そう、三人の中の誰が怪しいか、はたまた別の誰かか」
犯人が月曜までに捕まるか、でもいいよ。
楽しそうにうながす守成に、蛍子はさっと手を差し出した。
「三千円」
「ケイッ」
吉野が思わず怒鳴る。守成から本気でお金を取る気だろうか。それも相場より高いじゃないか。
吉野がそういって怒ると、蛍子は笑って、
「あのねぇ、私は『タロット蛍子』なのよ。占いにお金取らなくてどうするのよ」
「でも、いつもより高いじゃない」
三千円なんて。
「そーれは、問題が厄介だから。恋愛と同じ相場じゃダメでしょ。やっぱ」
それに緑南のトップシークレットよ。答案用紙が盗まれたなんて、いくら噂になっているとはいえ、学校側は認めないでしょうし。
「それじゃあ、脅迫じゃない」
蛍子の言い分に、吉野が憤然とする。
「かまわないよ、別に」
守成は吉野を宥めるように微笑(わら)うと、財布から三千円取り出した。
「毎度」
蛍子はそういって、三千円受け取ると机におき、カバンからカードを取り出した。
「さて、どうする?」
「そうだな、犯人はどんな奴か。無事に取り押さえることができるか」
というところだな。という守成に、蛍子がカードを切らせる。
守成は鮮やかな手つきでカードを切り、生徒会長の机の前で、カードを広げた。
シャッフル(混ぜる)する守成の手つきはやはり手慣れている。
「過去、現在、未来と」
蛍子は守成から受け取ったカードを手際良く並べると、次々とめくっていった。
「うーん、結構運勢良いわね。アナタの志しは果たされるでしょうって。つまり犯人は捕まるってこと。ただし、守成が捕まえるかどうかは分からない。犯人は、意外な人物?上の人・・・・?アナタの身近な所にいるでしょう」
蛍子が出てきたカードを読み解くと、
「それじゃあ、犯人は絞れないぞ」
大石が文句をいう。
「ウルサイ」
蛍子はむっとしながらも、確かに今の占いなら、犯人を絞り込めないことに気付き、今度は捜し物占いをするために、カードを選り分けた。
「捜し物は、テスト問題だから。皇帝のカードっと」
自分でカードを混ぜ合わせると、また守成にカードを切らせる。
「えっと、カードは南西」
皇帝のカードが出てきた方角を告げると、
「あのなあ、どうやって探すんだよ。南西にある部屋全部みるのか。ここだって、南西だぞ」
大石が呆れてため息をつく。
「学校とも限らないしね」
家に持って帰っているだろうし、と三杉はいうと、
「たしか、南西の方角に家があるのは清原くん。上の人っていうことは、やっぱり二年のテスト用紙より上ってことで、三年の二宮栞かしら」
蛍子の占い通りに考えてやる。
「そうねぇ」
気のない相づちを打つと、
「『吊られた男』がでてる。何かに、賭ける・・・・・」
呟く蛍子に、「そうだな」と、守成は相づちを打つと、「それで、結果は」と聞いた。
「いったでしょ。結構、運が良いって」
蛍子が言い放つと、守成は「よし」と立ち上がった。
「それじゃあ、賭けをしようか」
不敵ににやりと笑ってみせる。
「そうね。その方がいいかも」
蛍子があっさりと同意する。
「えっ、何をするんですか」
慌てて吉野が尋ねた。
「だから、賭けよ」
蛍子が悪戯っぽく、笑ってみせた。

◆木曜日◆ へ続く)